226 / 1096

第226話 休息 13-5

「本当は、ものすごく眠いでしょ?」 「は?」 「しょうがないな」  まったく意味を理解できずいる僕の髪を梳き、藤堂はため息交じりに自分の胸元へ僕を抱き寄せた。そしてそんな突然の抱擁に驚く間もなく布団を被せられ、僕は戸惑いながら藤堂を見上げてしまった。  「なんだ?」 「嫌ですか?」 「……嫌、じゃないけど」  それどころか自分でも驚いてしまうほど、急に睡魔が襲い始めて頭がぼんやりしてきた。  ひどく眠たい――さっきまでは全然眠くなんてならなかったのに。藤堂の心臓の音や微かに感じる温もりに安心する。 「言ったでしょ。俺はあなただけだって、佐樹さんがいればなにもいらないから。俺の全部、佐樹さんのものだよ」 「全部?」 「そう、全部」  藤堂の言葉にじんわり胸が温かくなって、さらに眠気が強くなる。うとうとし始めた目を瞬かせ微笑む藤堂をじっと見つめれば、触れたいと思う気持ちの裏側にあったものにやっと気がつく。  不安、だったのか。  腕を伸ばして藤堂の背を抱きしめると、なぜかたまらなく泣きそうになった。この温もりが愛おしくて、胸が締めつけられる。 「藤堂、眠い」  ふいに口からあり得ないくらい甘えた声が出た。けれど、いまはもう眠気と心地よさに抗えない。 「心配しないで、寝ていいですよ。俺はどこにも行きませんから」 「……ん」  眠気で舌の回らなくなってきた僕に、藤堂が小さく笑う気配を感じる。髪を撫でる手が温かくて、抱きしめ返してくれる腕が優しくて、足りなかったものが満たされるような気分。 「藤堂」 「なんですか」 「……おやすみ」  そう呟くと次第に意識が遠退いていく。けれど微かに唇に触れた温もりに、思わず口元が緩んだ。 [休息 / end]

ともだちにシェアしよう!