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第226話 休息 13-5
「本当は、ものすごく眠いでしょ?」
「は?」
「しょうがないな」
まったく意味を理解できずいる僕の髪を梳き、藤堂はため息交じりに自分の胸元へ僕を抱き寄せた。そしてそんな突然の抱擁に驚く間もなく布団を被せられ、僕は戸惑いながら藤堂を見上げてしまった。
「なんだ?」
「嫌ですか?」
「……嫌、じゃないけど」
それどころか自分でも驚いてしまうほど、急に睡魔が襲い始めて頭がぼんやりしてきた。
ひどく眠たい――さっきまでは全然眠くなんてならなかったのに。藤堂の心臓の音や微かに感じる温もりに安心する。
「言ったでしょ。俺はあなただけだって、佐樹さんがいればなにもいらないから。俺の全部、佐樹さんのものだよ」
「全部?」
「そう、全部」
藤堂の言葉にじんわり胸が温かくなって、さらに眠気が強くなる。うとうとし始めた目を瞬かせ微笑む藤堂をじっと見つめれば、触れたいと思う気持ちの裏側にあったものにやっと気がつく。
不安、だったのか。
腕を伸ばして藤堂の背を抱きしめると、なぜかたまらなく泣きそうになった。この温もりが愛おしくて、胸が締めつけられる。
「藤堂、眠い」
ふいに口からあり得ないくらい甘えた声が出た。けれど、いまはもう眠気と心地よさに抗えない。
「心配しないで、寝ていいですよ。俺はどこにも行きませんから」
「……ん」
眠気で舌の回らなくなってきた僕に、藤堂が小さく笑う気配を感じる。髪を撫でる手が温かくて、抱きしめ返してくれる腕が優しくて、足りなかったものが満たされるような気分。
「藤堂」
「なんですか」
「……おやすみ」
そう呟くと次第に意識が遠退いていく。けれど微かに唇に触れた温もりに、思わず口元が緩んだ。
[休息 / end]
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