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第231話 ランチタイム 5
「して欲しいこと、なんでもして貰えばいいんじゃないってこと。そのうちお菓子も作ってくれちゃうかもよ。きっと西岡先生がしてくれって言ったら、料理だけじゃなくて掃除や洗濯、家事もなんでもしてくれるかもねぇ」
「いや、そこまでは」
半ば宙を見つめて話し出した片平の様子に我に返り、僕は慌てて首を振った。確かに言ったらしてくれそうな勢いはあるけど。
「嫁じゃないんだから」
「嫁ポジションいいじゃなーい。既にお母さんとはメル友だし、ね」
「は? なんだそれ、聞いてないぞ」
口元に手を当てて笑いをこらえる片平の視線の先で、ふいに顔をそらした藤堂の腕を僕はとっさに掴んだ。
「この前、先生の実家に行った帰りに……連絡先聞かれて、たまに」
「だから、か。なんか変だと思ってたんだよな」
最近のメニューと、味――実家の母親の味つけとすごく似ていた。
ぽつりと呟いた藤堂の言葉でやっと、心のどこかに引っかかっていたものが抜けた。それと同時に顔が一気に熱くなる。
「って言うか、なに勝手に連絡先交換してんだあの人」
抑えた頭が一瞬くらりとした。自分の母親ながら考えがまったく読めない。
「まあ、そのおかげで毎日美味しいご飯を食べられるんだから。あ、いっそ先生の家に住み込みとかどう?」
「勝手に盛り上がるんじゃない!」
いまだ楽しそうな片平の暴走はしばらく止まりそうにない。
「迷惑でした?」
「……いや、迷惑じゃ、ないけど」
掴んでいた腕がわずかに引かれ、藤堂が不安そうにじっと僕を見つめる――その顔に、僕は相変わらず弱くて言葉が詰まってしまった。迷惑どころか嬉しいに決まってる。
「うん、なんか平和だよね」
「こら、三島。なに一人で第三者な顔をしてるんだよ」
やたらとウキウキしている片平と、少し気まずそうに俯き加減な藤堂。そしてそれをニコニコと眺めている三島。
賑やかで少し騒がしいそれは結局いつもと変わらないお昼の光景。
[ランチタイム/end]
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