234 / 1096

第234話 引力 3

 一時触られるのにひどく抵抗があったけれど、いまはなぜかまったく気にならない。またあんなことをされるようなことがあったら話は別だが、背中に貼り付く峰岸にそんな素振りはなく、無駄にデカイ猫にじゃれつかれているような気分。 「そういえば、さっき渡り廊下で藤堂を見かけたぜ」  急に小さな声で話す峰岸に振り返りそうになる。しかし顔を寄せている峰岸に遮られてそれは叶わなかった。 「渡り廊下で?」  この学校で渡り廊下と言えば一つしかない。本校舎と僕が普段、一日の大半を過ごす教科準備室がある旧校舎とを繋ぐ廊下だ。そこを歩いていたということは、準備室へ向かっていたのだろうか。そういえば今日は水曜日だ。 「そうか、休みか」  最近バイトのシフトを、元々の固定である日曜のほかに水曜を休みにしているようで、藤堂は休みの日には必ず僕の帰りをあそこで待っている。 「休みなら放課後にも顔出せよな」 「ん? お、重!」  小さく舌打ちした峰岸に首を傾げると、背中の重みがさらに増して身体が自然と前屈みになる。なんとか力を入れて押し戻そうとするが敵わない。仕方なく手元にあったファイルを掴んで峰岸の頭を叩くと、ほんの少し重みが引いた。 「人を殺す気か」 「女子に捕まって告られてたけど」 「は?」  一瞬言葉の前後がわからなくなって、間の抜けた声が出てしまった。けれどすぐにその意味を理解して僕は目を見張る。変な冷や汗が出た。

ともだちにシェアしよう!