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第235話 引力 4
「そこで騒いでる子に、だけどな」
恐らく青くなっているであろう僕の顔を覗き込み、峰岸はにやりとした笑みを浮かべてその横顔に口づける。小さなリップ音に僕は肩を跳ね上げて我に返った。
「峰岸!」
「はは、センセ反応が遅過ぎ」
腕を振り上げた僕をとっさに避けて、峰岸は一歩後ろへと飛び退いた。
「びっくりした?」
「……う、うるさい!」
目を細めて笑う峰岸の言葉が示すのは、無遠慮に口づけたことではない。それに気がつくのは僕くらいだろう。
「お前らも見てないで作業を続けなさい」
いつの間にか集まっていた周りの視線に軽く頭痛がする。呆れた空気と黄色い悲鳴が入り混じるこの状況にどっと疲れが押し寄せた。
「会長、遊んでないでこっちの仕事して貰ってもいいですか」
「あ? そのくらいお前たちでやれよ。俺がどんだけやってると思ってんだよ」
ふいに僕らのあいだに入った柏木に峰岸が眉をひそめる。不遜な態度で口を曲げた峰岸。しかしその不服にも一理あり、いままさに彼は会場設営の業者との打ち合わせに借り出され戻ってきたばかりだった。
本来なら顧問である僕が行かなくてはいけないのだけど、あくまでも代理なのでそこまではしなくていいと、ほとんど面倒ごとは峰岸がしてくれている。
「全部自分で進んでやってるくせに」
「お前ほんと生意気だな」
明け透けな柏木の言葉に峰岸は露骨に顔をゆがめ、僕の隣で椅子を引いた。
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