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第237話 引力 6
「やっぱりな」
なんとなくそんな気はしていたけど、実際に知るとかなり複雑な気分だ。
「別に嘘じゃないけど? センセのことは好きだし」
「そ、残念ながら先生はお前の気持ちには応えられないなぁ」
ふいに緩んだ峰岸の腕を解いて立ち上がると、顔を上げた峰岸の頭を撫でる。不満げに目を細めたその顔に苦笑して、その耳元に顔を寄せた。
「悪いけど、藤堂もあげられない」
「……」
微かな僕の声に驚いたように目を瞬かせ、峰岸はじっとこちらを見つめる。しかしすぐに小さく息をついて、いつものように峰岸はにやりと片頬を上げて笑った。
「仕方ないな。俺のよさがわかんないようじゃ」
肩をすくめてそう笑う峰岸は先ほどまでの雰囲気などまるでなく、百獣の王は健在だ。けれどあまりにも彼らしいそんな姿に、ほっとしてしまう自分が少しずるくも思えた。
惹き合い繋がりあう引力があれば、それによって引き剥がされてしまうものがある。それを改めて知ると少し胸が痛くなった。それでも離れがたいと思う心が僕の中にある。
「藤堂」
「お疲れ様」
急くようにして戻った準備室の戸をガラリと引けば、薄暗い室内で身じろぐ気配と優しい声が返ってきた。電気もつけず足早に彼に歩み寄ると僕は腕を伸ばし、藤堂を抱きしめる。
その腕の中にある温かさに、ズキリと胸が痛み締め付けられるような気がした。
「……先生? どうかしましたか?」
「なんでもない。なんでもないんだ」
どうかこの温もりを引き剥がさないで欲しいと、そう思う自分はやはりずるいと思った。
[引力/end]
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