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第240話 ヒヨコの受難 3
「い、言わないって誰にも。だってニッシーといる時の藤堂ほんと幸せそうだし」
「え?」
自分の言葉に俺があ然としていることなど、まったく気づきようがないくらい神楽坂はぶんぶんと顔を左右に振る。そしてなぜか両手を前に出して俺を遮ると、再び階段に腰かけた。
「なんかさ、こないだ見た時。ああ本気で好きなんだなぁって思ったんだよ。藤堂って誰に対しても気配り屋さんだけど、いっつもどっか冷めてんじゃん? けどニッシーと一緒にいる時はほんとに陽だまりみたいな感じで暖かくてさ、雰囲気……あ、れ? 顔が赤いよ、藤様」
ふいに顔を上げこちらを見た神楽坂が急にニヤニヤとし始める。そしてそれと共に口角がぐっと上がり、俺を見る目に悪戯の色を含んだ。そんな表情に思わず、というよりも無意識に、俺は神楽坂を踏み倒していた。
「ちょっと、まじ勘弁! 俺はそっちの気はない。踏まれても嬉しくないから!」
「神楽坂、うるさい」
足を避けて悲鳴の如く大声を張り上げる神楽坂の口を押さえると、なぜか背後から悲鳴が聞こえてきた。
「お前が騒ぐから人が集まっただろ」
「藤様がいたいけな級友を足蹴にするから悪いんじゃん。って言うか、いまの俺って貞操の危機的シチュエーション?」
舌打ちした俺に軽過ぎる笑い声を上げた神楽坂にイラッとしながら、その軽そうな黄色い頭を叩いて仰向けの身体を跨ぎ越した。
「最近女子に毒されてきたな」
「自分が餌食にされない為には、自ら色に染まっとくと擬態がしやすいでしょ」
一応これ処世術――そう言って反動をつけて勢いよく起き上がると、神楽坂は制服の埃を叩き笑う。
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