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第241話 ヒヨコの受難 4

「ふぅん、ところでだいぶ人が集まったけど……お前なにから逃げてたの?」  神楽坂の処世術とやらを聞きながら、手摺りにもたれた俺は一番初めの疑問を思い出す。きょとんとした表情を浮かべる神楽坂に首を傾げると、その顔が見る見るうちに青褪めていった。 「元はと言えば藤堂が委員会をサボるのが悪いんだからな!」 「は? サボってないだろ。もともと出る予定じゃ」  急にジリジリと後ろへ下がり始めた神楽坂に眉をひそめるが、突然くるりと方向転換をして脱兎の如く逃げ出した。 「ダブル鬼畜なんて望んでないから!」  よくわからないことを大声で叫びながら、神楽坂は人込みをかき分けて走り去っていった。 「……意味がわからない」 「まったくだ」  神楽坂の後ろ姿を見ながら呟いた俺の独り言に、極自然に応える声――その声に振り返ると背後から伸びた腕が首に絡みついた。  もれなく耳に痛い黄色い悲鳴も聞こえた。 「峰岸、暑苦しい。それとお前、あまり神楽坂を苛めるな」  おぶさるように体重をかけてくる峰岸に一瞬だけ身体がよろめく。邪魔だと顔を押し退けるが、それでもなお峰岸は張り付いて離れようとはしない。 「つまらねぇんだから仕方ないだろ。お前が来ないとセンセも来ないし」 「あのな」  いつだったかあの人がこいつを大きな猫だと称していたけれど、そんな可愛いものでは済まないだろう。遠慮もなくのしかかる重みに苦笑してしまう。

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