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第242話 ヒヨコの受難 5
「お前は友達がいないからな」
「ほっとけ」
ため息交じりに肩をすくめると、ふて腐れたような声がぼそりと聞こえた。
「相変わらずだな、ほんとにお前は」
実際に友達がいないわけではないが、峰岸が率先して誰かと一緒にいるところをいままで一度も見たことがない。
「俺は、お前がいるだけでよかったんだけどな」
「ん?」
急に離れた腕を振り返る。しかし峰岸の言葉は鳴り響いたチャイムで、はっきりと耳には届かなかった。
「なにがよかったって?」
「お前が」
「二人とも、チャイムが鳴ったぞ」
再び口を開きかけた峰岸を遮るように、ふいに階段下から声がかかる。その声に俺たちは、揃いも揃っていち早く反応を示した。
「藤堂、峰岸、授業が始まるから教室戻れよ」
「先生」
ほんの少し首を傾げながら、ゆっくりとした足取りでこちらへ向かってくるその姿に、自然と頬が緩んだ。ついさっきまで一緒にいたはずなのに、それでも顔を見ただけでふっと胸が軽くなる。
「なあ、センセいまのってわざとだろ?」
「……」
珍しく彼に対し眉をひそめた峰岸を訝しげに見れば、なぜか慌てたように彼は俺の背を押した。
「ほら! 早く戻れ」
「ま、いいけどね。俺はセンセ好きだし」
「……」
目の前で肩をすくめる峰岸と、後ろで背を押す彼の合間で、俺は意味がわからず首を捻った。そして――先ほど走り去っていった神楽坂とあずみの取り合わせを階下に見つけ、さらに首を傾げた。
「かぐちゃん、なんか面白いフラグが立ってるよねぇ」
「俺は、なんかもう……死亡フラグなんだけど」
二人の会話はさすがに聞こえはしなかったが、放課後に再び峰岸に追い回されている神楽坂の姿は見かけた。
なんだかんだと神楽坂は峰岸に気に入られているようだ。
[ヒヨコの受難/end]
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