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第249話 Feeling 2-1
バスを降りてなに気なく空を見上げると、すっかり日は落ちて月が顔を出し始めていた。
「……っ」
いつまでもぼんやりとそれを眺めていたら、軽いクラクションを鳴らしてバスは背後を通り過ぎていく。走り去ったバスの風圧で辺りに風が舞い起こり、散った埃に思わず俯いて目をすがめた。
「どうしたセンセ」
前を歩く峰岸が、立ち尽くしていた僕に気がつき振り返る。しんと静まり返った空間に峰岸の声がよく響く。
「あ、悪い……」
立ち止まった峰岸に慌てて走り寄ると、なぜかいきなり肩を抱き寄せられた。
「キス一回で許してやる」
「馬鹿かお前は」
明らかにからかいを含んだ笑みを浮かべる峰岸の頭を叩けば、小さく笑って肩に回された手が離れていった。
「それにしても、よくここでOK出たな。確かに、桁は多かったが」
久しぶりに見る厳かなホテルを見上げると、思わずため息が出てしまう。何度見ても立派だ。経理へ提出する際、書類に記入したゼロの数に今更ながら頷ける。
「まあ、まともに掛け合ったら無理だろうな。コネだよコネ」
呆けたまま上を向いている僕に苦笑いを浮かべながら、峰岸は肩をすくめ躊躇うことなくホテルの脇へ歩を進めた。
「コネ?」
「そ、身内のコネ」
首を傾げる僕に目を細め、ゆるりと片頬を持ち上げた峰岸に、ますます頭の上で疑問符が飛んだ。しかしその疑問もすぐに解消される。峰岸は裏口へ入り、窓口にいた守衛に軽く手を上げると、その前を通り過ぎてさらに奥の扉を躊躇いなく引いた。
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