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第252話 Feeling 2-4
少し長めの明るい茶髪に、ストライプのスーツが細身の身体つきによく似合う。一瞬どこのホストかと目を疑ったが、よくよく見れば誰かに似ている。
「峰岸の、お兄さん……ですか?」
「ん? そうですけど。ああ、もしかして西岡先生?」
訝しげに僕を見下ろしていた峰岸の兄は、なにを思い出したのか急に僕を指差しにやりと片頬を上げた。その笑った顔は峰岸とそっくりだった――さすがは兄弟。
「そうか、そうか。どうも、うちの可愛い妹と愚弟がお世話になってます。兄の拓真です」
差し出された手を取ると、彼は両手で僕の手を握り、至極機嫌のよさそうな表情を浮かべる。訝しげな顔で首を傾げれば、さらに綺麗な微笑みを返された。
「珍しく一真が気に入った先生がいるって、真帆からよく聞いてます」
「え? は、はあ」
曖昧な返事をしながら、生徒の顔と名前を思い返す。彼の言う真帆というのは恐らく一年の峰岸真帆だろう。同じ峰岸で気になってはいたが、やはりここは兄妹だったのか。
「瑛冶さんちょっと代わって」
「え、優哉くん?」
握られたままの手をどうしようかと考えあぐねていると、急に重なっていた手が弾かれ別の手に腕を引かれた。
「藤堂?」
驚く間もなく半ば引きずられるように調理場を出れば、更衣室へは向かわず左手に折れて非常階段の踊り場に押し込められた。藤堂の背後で鉄製の扉が鈍い音を立てて閉まる。
「え、っと、藤堂?」
俯いたまま身動き一つしない藤堂に恐る恐る声をかければ、肩で大きくため息を吐かれた。
「すみません。少し取り乱しました」
ぽつりとそう呟き前髪をかき上げた藤堂の顔を覗き込むと、ふいに目をそらされ微かに染まった頬だけが目に留まる。
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