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第253話 Feeling 2-5
「ん、悪かったな。急に来て」
「いえ、こちらこそ。いきなり引っ張り出してしまってすみません」
ぼそぼそと小さく呟く藤堂の様子に、どうしても頬が緩んで仕方ない。しかし俯いた頭をそっと梳いて撫でれば、少し眉をひそめた顔が持ち上がった。
「佐樹さん?」
「なんだろうな、藤堂といるとほっとする」
「なにか、ありましたか」
「え?」
ふいに藤堂の視線が鋭くなり、髪を撫でていた手を取られた。その手を掴む強さに驚いていると、腰へ回された腕に抱き寄せられる。
「あ、の、藤堂……」
戸惑いながらも彼を見上げれば、目尻と頬へ柔らかな唇が落ちてきた。
「な、なにもない。ただちょっと、実感しただけと言うか。峰岸はあんな性格だし、一緒にいて気を使わなくいいから、楽だと思ってた、けど……やっぱり、藤堂といるのが一番安心するなぁ、って」
「本当にそれだけですか」
「あ、ああ。それ、だけ」
慌てふためく僕に表情を曇らせた藤堂は、小さく首を傾げてこちらをじっと見下ろす。そしてそれに込められた意味がわからず、僕が藤堂の腕を掴むと、両腕で強く抱き締められた。
「なにもないなら、いいです。ただ、佐樹さんは俺に触れたがる時はいつも、どこか不安があるみたいなので、少し心配になっただけです」
「あ……」
藤堂の言葉にほんの少し、まるで針で刺したかのように胸がチクリと痛んだ。自分でも気づかずにいた裏側の気持ちが、その言葉で胸の底から浮上した。
「あのさ。こんなこと、聞くのおかしいとはわかってるんだけどな」
「なんですか」
心配そうに僕を見下ろす藤堂の目が、ひどく優しい。こんなこと聞かなければいいのに、気持ちとは裏腹に口が動いてしまう。
「藤堂は、峰岸のこと……どう思ってた?」
ずっと傍にいて、彼の気持ちには気づいていた?
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