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第254話 Feeling 3-1
しんと静まり返った空間に、踊り場の隅に置かれた室外機のモーター音だけが響く。わずかに外灯の光が漏れ射し込むだけのこの場所が、やけに静けさを助長する。
「……藤堂」
薄暗い闇に溶け込んで、見えなくなってしまいそうな不安。自分を抱き締める藤堂を、繋ぎ留めるかのように、僕は腕を伸ばしその背を抱き寄せた。
「あいつが、なにか言ったんですか」
なだめるように髪を撫で、背をさする藤堂の手がひどく温かくて、僕はたまらず肩口に額を押し付けた。
「違う。見ていればわかる」
「自分のことはまったくなのに」
「お前を見ている奴は、みんな気づく」
ため息交じりに呟く藤堂の背中をぎゅっと掴むと、肩の上にほんの少し重みを感じる。横目でその先を見れば、藤堂が僕の肩に頭を乗せ俯いていた。
艶やかな髪先から覗く耳や首筋が、薄明かりの中でもわかるほどに赤く染まる。
「どうした?」
「……あなたが可愛過ぎて、どうにかなりそうです」
俯いたまま深いため息を吐いた藤堂に目を瞬かせれば、髪を梳きそこへ口づけられた。
「わからなければ、いいです。俺が堪え性がないだけですから……多分」
少しだけ緩んだ腕の力に首を傾げると、藤堂は扉にもたれながらその両手を僕の腰の辺りで組んだ。それに習い、同じように腕を下ろせば、やんわりと微笑んだ藤堂の唇が額に触れた。
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