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第257話 Feeling 3-4
「すみません。あまりにも可愛かったので、つい」
「……馬鹿」
急にぐったりとした僕に、ほんの少しうろたえたような声を上げる藤堂。その顔を上目で睨むと、もたれた身体を隙間がなくなるくらい強く抱き寄せられた。
「心臓に悪い……死にそう」
ぼそりと耳元で呟く藤堂の独り言に首を捻るが、それは深く長いため息でうやむやにされてしまった。
「藤堂は、峰岸のことを可愛いとか思ったことあるか?」
「……は?」
「は、じゃなくて」
「え?」
僕の一言で、時が止まったかのように瞬きを忘れ、藤堂が固まった。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔――彼のそんな顔を久しぶりに見た。確かに突然そんなことを聞かれれば、驚かずにはいられないとは思うが。
「なにをどうしたら、そういう質問が出るんですか」
「なんとなく。峰岸って懐かない猫みたいだろ? それが自分には甘えてくるの、可愛いって思ったりしないか」
ひどく険しい顔をする藤堂に首を傾げれば、目を細められ、ますます眉間にしわが寄る。
「……まさか、思ったりしてるんですか?」
「ん、まあ。たまに」
顔をひきつらせている藤堂に小さく頷くと、うな垂れたように肩を落として、藤堂は重たいため息を吐き出した。
「なんで急にそんなこと聞くんですか」
「藤堂は甘えられるのに弱いのかと思ったから?」
身近にいる人間の感情に藤堂は敏感な気がする。自分が見ている範囲だけで、普段の彼はほとんど知らないが。多分、懐に入れた人間にはすごく優しい気がした。
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