264 / 1096

第264話 邂逅 1-3

「始めたきっかけってある?」 「うーん、そうだな」  首を傾げた三島の視線に、僕は昔の記憶を巻き戻すかのように目を細め、考えてみる。色んなことが思い浮かぶけれど、はっきりとした印象は一つだった。 「ああ、父親かな。プロだったわけじゃないけど、ずっと写真撮ってる人だった」  小さい頃にあちこち連れ回された記憶がある。休みの日になればどこへでも飛び出して行ったので、実家に帰れば家族写真を綴じたアルバムが何冊もあったはずだ。 「あの人がいなくなってから、あまり触らなくなったのかもしれないな」 「……もしかして西やんのお父さん、亡くなったの?」 「そ、もうどれくらい経つかな? 高校に入った年だった気がする。病気を患ってな、あっという間だった」  あれは本当にあっという間の出来事だった。医師に宣告されてから、さほど時間が過ぎないうちに父はいなくなってしまった。人生は明日、いや次の瞬間なにが起きるかわからないものだと思った。 「そんな顔をするな」  急に曇った三島の顔に僕は軽く笑って見せる。それはどうしたっていつしか来る別れだ。それが少しばかり早かっただけのこと。それにもう随分と時間が過ぎて、いまではほんの少し思い出が残っている程度だ。 「じゃあ、お母さん大変だったね」 「え? ああ、そうだなぁ。上がだいぶ大きかったから、少しはマシだったろうけど、大変だったとは思う」  三島の言葉に一瞬だけ僕は戸惑った。なぜなら人は大概僕に対して大変だったねと言う。だがいまそう言われなかったのが不満だったのではなく、三島はほかの誰よりも母親の心配をした。そのまっすぐな気持ちが少し嬉しかったのだ。

ともだちにシェアしよう!