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第264話 邂逅 1-3
「始めたきっかけってある?」
「うーん、そうだな」
首を傾げた三島の視線に、僕は昔の記憶を巻き戻すかのように目を細め、考えてみる。色んなことが思い浮かぶけれど、はっきりとした印象は一つだった。
「ああ、父親かな。プロだったわけじゃないけど、ずっと写真撮ってる人だった」
小さい頃にあちこち連れ回された記憶がある。休みの日になればどこへでも飛び出して行ったので、実家に帰れば家族写真を綴じたアルバムが何冊もあったはずだ。
「あの人がいなくなってから、あまり触らなくなったのかもしれないな」
「……もしかして西やんのお父さん、亡くなったの?」
「そ、もうどれくらい経つかな? 高校に入った年だった気がする。病気を患ってな、あっという間だった」
あれは本当にあっという間の出来事だった。医師に宣告されてから、さほど時間が過ぎないうちに父はいなくなってしまった。人生は明日、いや次の瞬間なにが起きるかわからないものだと思った。
「そんな顔をするな」
急に曇った三島の顔に僕は軽く笑って見せる。それはどうしたっていつしか来る別れだ。それが少しばかり早かっただけのこと。それにもう随分と時間が過ぎて、いまではほんの少し思い出が残っている程度だ。
「じゃあ、お母さん大変だったね」
「え? ああ、そうだなぁ。上がだいぶ大きかったから、少しはマシだったろうけど、大変だったとは思う」
三島の言葉に一瞬だけ僕は戸惑った。なぜなら人は大概僕に対して大変だったねと言う。だがいまそう言われなかったのが不満だったのではなく、三島はほかの誰よりも母親の心配をした。そのまっすぐな気持ちが少し嬉しかったのだ。
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