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第266話 邂逅 2-1
昔から僕は両親にも姉たちにも怒られたことがほとんどない。いつだって仕方ないねと笑って頭を撫でられる。それを不満に思ったことは一度もないが、自分の甘さを実感してしまう。
「いい兄でいるのもなかなか大変だよ」
「そうか、でも頼られるのはいいと思うぞ。うちは下もいないし、上が強いからなぁ」
母に姉二人――我が家は女が個々に強いので、あまり頼りにされることがない。僕はいつも彼女たちの後ろをついて歩くばかりだ。
「うーん、でもいたらいたで面倒だよ。だけど西やんは生徒にはすごく頼りにされてるし、愛されてると思う。ちょっと不器用だけどね、いい先生だよ」
「なんだよ、その不器用って」
褒められているものの、少々その内容に納得がいかない。僕を横目に見ながら小さく肩をすくめた三島に思わず口を曲げてしまう。
「西やんのいいところは、ほかの先生たちが面倒くさがって聞いてくれないような、小さな声にも耳を傾けてくれること」
「でも、全部背負おうとして潰れちゃうとこが不器用」
「え?」
ふいに三島の言葉に続き聞こえてきた声に振り返れば、締め切られていた扉が大きく開いた。静かだった室内の空気が揺れて、人の気配が広がる。
「終わったのか?」
ぞろぞろ暗室から出てきた生徒たちに首を傾げれば、その先陣を切って歩く片平がにこりと笑った。
「まあね。でもまだ少し撮り直しかな。今日はこれで解散」
「そうか」
その片平の言葉とほぼ同時か、皆一様にそれぞれの荷物を手に帰り支度を始めた。
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