271 / 1096
第271話 邂逅 3-1
微かに残る記憶を手繰り寄せて、彼を思い出す。写真に写る二年前の藤堂と僕が出会ったのは多分、寒い――雪が降る頃。
あの日は白い雪空が広がっていた。その時、彼に出会ったのは本当に偶然だった。
年明けの雪が溶け始め、ほんの少し寒さが和らいだ日が続いていた。けれどまだまだ二月の初め、冬の寒さは遠のいてはいない。
今年は例年より寒く、桜が咲くのは三月の終わりか月初めか。入学式には咲いているといいなと思いながら、僕は窓の外で風に揺らされている桜の枝を見つめた。
「今日はやけに冷えるな。……ん?」
一人ぼんやりと感傷に浸っていると、背後で戸を叩く音がした。小さく返事をすれば、それはゆっくりと開き見慣れた同僚が顔を出す。
「西岡先生、ちょっといいですか」
「あ、どうぞ。廊下は寒いだろ? 中に入ったら間宮先生」
戸の隙間から顔だけ出す間宮に、僕は首を傾げて手近の椅子を勧める。するとあたふたと慌ただしく彼は室内に入り、僕の目の前に腰かけた。
「用があるなら、内線を鳴らしてくれてもよかったのに。旧校舎は寒いだろ」
いまいるこの教科準備室は、本校舎から離れた場所にあるだけでなく、建物が古いせいか向こうより少し寒さを感じる。その証拠に間宮は手をすり合わせ、いまにも凍えて動かなくなりそうだ。元々少し変わっている、と言うか。物事に対してのんびり、いやズレている彼の行動には時々驚かされる。
「どうぞ、粉の簡単なお茶だけど」
予備に置いているマグカップにお茶を入れ間宮に手渡すと、嬉しそうに顔が綻んだ。
「ありがとうございます」
去年この学校へ新任教師として赴任してきた彼は、実はそんなに歳が変わらない。大学院まで行って、なぜ教師になってしまったのかは疑問だが、少しおっとりしていて、随分と世間知らず気味だ。
ともだちにシェアしよう!