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第272話 邂逅 3-2
そんな箱入り息子はいつの間にやら僕に懐いてしまった。なにかあれば真っ先に僕のところへやってきて、相談を持ちかけてくるのだ。しかしほかの先生たちはこの独特の空気感が掴めず、苦手意識があるようなので、僕に懐くのは致し方ないのか。けれど僕は彼のことは嫌いではない。あまり相手に深く干渉して来ないところが、すごく楽だ。
「で、なに?」
「あの、お茶頂きます」
「……どうぞ」
「西岡先生、来期も担任も副担もやらないんですか?」
ふぅふぅとカップの縁を吹いていた間宮が、小さく首を傾げて僕を見る。冷えた手を温めるためか、両手でカップを持つ姿がまるでリスのようだ。
しかも湯気で彼の眼鏡が半分曇っている。
「あ、あの」
「え? ああ、なんでもない。来期、来期ね」
思わず噴き出した僕に、間宮は目を瞬かせていた。
「間宮先生もそうだけど、後続の若い先生たちもだいぶ学校に慣れたみたいだし、そろそろそちらにお任せするのもいいかなと思って」
というのは口実で、少し面倒ごとから身を引いていたかったのが正直な理由。けれど間宮はそうですかと小さく呟き、俯いてしまった。
「ん? 間宮先生もしかして、来期どこかのクラスに就くとか?」
「……いえ、クラスには就かないんですけど。顧問を頼まれまして。お断りしたんですが、断りきれなくて」
しゅんと肩を落とした間宮に首を捻る。そんなに気落ちするような部活はあっただろうか。まあ、彼にして見ればどこも不安なのだろうけど。
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