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第274話 邂逅 3-4

 できるだけ目立たぬように、できるだけひっそりと、いまの僕はこの学校の空気のようになりたいとさえ思っていた。 「じゃあ、当日はよろしくお願いしますね」  真剣な顔で当日の時間割や資料を渡す教頭に、思わず苦笑いが浮かんだ。 「わかってます、大丈夫ですから」  やけに何度も念押しされるのはなぜだろう。いまの僕にはやる気と言うものはほとんどないが、別にいままでなにか仕事を反故にした記憶もない。けれどそれを聞き返す気もなくて、心配げな教頭の顔に愛想笑いを浮かべて僕は頭を下げた。 「ああ、そうか。まだ気を使われているのか」  職員室内にいるほかの先生たちにも挨拶を済ませ、廊下に足を踏み出した僕は、ふと頭をよぎったものに思わず苦笑してしまった。 「もう、あれから随分経ったんだけどな」  けれどそう呟きながらも無意識に左手の薬指をさすった自分に、思わずため息交じりで頭をかく。自分で思っているよりも、周りにはまだ余裕がなく見えるのだろうか。いや、多分きっとそうなのだろう。だからこそ僕は面倒ごとを避けて通る。  人の目が僕を憐れむのが、なによりも辛い。 「未練とか、まだ恋しいとか、そんなんじゃないのに、な。やっぱり……後悔、かな」  あまり他人に強く執着しない僕にでも、誰かを愛しいと思う心はある。そして自分の父親を亡くした時よりも、あの日のほうが遥かに動揺したのは確かだった。 「さっさと帰ろう」  なんとなく気分が晴れずモヤモヤとし始めた。それを紛らわすように、僕は足早に校舎をあとにする。

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