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第275話 邂逅 3-5
「あ、今日はやけに冷えると思ったら、雪か」
外へ出ると灰色の空からちらちらと白い小さな結晶が降ってきた。手のひらを上に向ければ、次々と雪はそこへ落ちていく。傘など用意していないが、このくらいならば大したことはないだろうと、僕は再び歩き始めた。
「そういえばもう少しで母さんの誕生日だ。なにか送っとくか、忘れるとうるさいしな」
いまだに子供っぽいところがある母は、イベントごとを重視する人で、自分だけでなく姉たちの誕生日も、忘れるとすぐに電話がかかってくる。お互い近くに住んでいるとは言いがたい距離だから、今回も実家に帰るのは難しいだろう。
店が閉まる前にどこかでプレゼントを調達しようと、歩調を早め僕はバス停へ急いだ。
「すみません」
バス停に着くと丁度乗降しているところで、僕は慌ててそれに飛び乗った。急いでいたので目の前の人に少しぶつかってしまったが、その青年はちらりとこちらに視線を向けただけで、ふいと顔をそらされた。
随分と派手な子だ――金色に染めた長い髪。首に幾重にも巻かれ、ジャラジャラと下がったネックレス。指にいくつもつけたゴツゴツとした指輪。それだけならまだしも、光沢のあるシャツやおそらくブランド物であろうスーツが開いた質のいいコートの隙間から見える。とにかく目を引く子だ。そして若干乗客が引き気味なのも確かだった。綺麗な顔立ちをしているけれど、一見するとちょっとホストを通り越してチンピラっぽくも見えてしまう。
バスの中はどうしても目端に止まってしまう煌びやかな青年の影響か、皆一様に息を潜め、微妙な空気が漂っていた。
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