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第276話 邂逅 3-6

 そのまま十五分ほどバスに揺られていると、駅前のロータリーにバスはゆっくりと入って行く。そして開いた降車口から、皆忙しなくバスを降りて行った。  そんな中、僕はのんびりとした歩調でバスを降りた。 「……やっぱり美形には美形が集まるのが普通だよな」  類は友を呼ぶ。という言葉がある。同じようなものにはそれ相応なものが集まると言う。明良や渉さんなどの顔がふいに浮かぶが、僕の周りはやはり例外的なものなのだろう。一人納得して、僕は同じくバスを降りた金髪青年を横目に見た。彼は降車口の近くでガードレールに腰かけていた青年の元へ、足早に歩み寄って行った。  煌びやかな彼とは対称的なその青年は、黒いロングコートに身を包んだすらりとしたモデルのような容姿。少し長い前髪が頬にかかり、伏し目がちな切れ長の瞳をわずかに隠す。 「ふぅん、芸能人みたいな子だな。スーツでもないし、大学生かな」  風に吹かれて揺れる彼の髪は綺麗な黒髪で、装飾品の類などまったく身につけていないのに、金髪青年とは別な意味ですごく目を引く。  ニコニコと満面の笑みを浮かべ、金髪青年は彼に話しかけているが、彼は背中にべったりと張り付いた金髪青年に、眉一つ動かさずゆっくりと立ち上がった。 「……あ」  一瞬、目があった。  じっと見過ぎた。こちらの視線を感じたのだろうか。けれど彼はなにごともなかったかのように歩き出す。金髪青年はその背中を追い、張り付いたまま歩いて行った。 「あ、あれ?」  なぜか立ち尽くして、いつまでも青年の後ろ姿を見つめていると、彼のいた場所になにかが落ちているのに気がついた。その場に近づきしゃがんで見れば、ライターが落ちている。 「高そうなライターだな。……って、あ、いない」  カチリといい音が鳴るそれを拾い上げながら、僕は我に返って顔を上げた。けれど先ほどまで視界にとらえていた彼の姿は、もうどこにも見当たらなかった。

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