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第283話 邂逅 5-3

 ぎゅっと強く僕の背中を抱くその腕に、驚いたまま立ち尽くしてしまう。しばらく黙ってそうしていると、渉さんは長いため息と共に僕を離した。 「心配、すごく心配。やっぱり一緒に行こう」 「あ、いや外で行き違っても困るし、ここで待ってる」  上の空で話半分だった渉さんの話を頭の中で巻き戻して、僕は苦笑いを浮かべた。下へ一緒に降りようと言った渉さんに、僕はここで待っていると答えたのだ。  ぎゅっと強く僕の両手を掴む渉さんは、いまだに心配そうな表情を浮かべている。 「んー、すぐ戻ってくるからね。約束だよ、ここにいてね」 「わかってる」  本気で僕を心配しているのがわかるので、じっとこちらを見る目を見つめ返して、何度も頷いて見せた。するとやっと納得したのか僕の両頬に唇を寄せると、渉さんは自分のマフラーを僕に巻きつけ慌ただしく階段を駆け下りていった。 「向こうの挨拶って慣れない。って言うか、普通はキスまでしない、よな?」  会ったら一度は必ずされるのだが、いまだに慣れない上によくマナーと言うかそういうのがわからないので、疑問も浮かぶ。しかもいまは挨拶する状況ではなくおかしい気もする。 「……寒!」  渉さんがいなくなるとなぜか急に寒くなって来た。人が一人傍からいなくなるだけで、体感温度は変わるものだ。冷えて来た手を擦り合わせ、僕はまだ降り続く空を見上げる。

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