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第284話 邂逅 5-4
そして背後の壁にもたれて数分。さらに同じ言葉を繰り返して十分。やっと渉さんの心配をいま身を持って体感している。
「暇じゃない。人を待ってるんで」
「寒いのに待ちぼうけとか、ありえないじゃん。一緒に遊びに行こうぜ」
「行かない」
何度あしらっても、次から次へとやってくるこの――ナンパに、いい加減辟易してきた。
特にこの目の前の男が一番しつこい。ほかの男は何度か粘るものの、はっきり拒絶すれば最後には比較的あっさり引いてくれた。なのに――。
「しつこい、うざい。いい加減にしてくれ」
そんなに僕は気が短いほうではないのだが、この男を前にすると苛々が募る。しつこさが度を越してる気がした。
「だってよ、手がこんなに冷たいじゃん。そんな彼氏は放って俺と遊ぼ」
「触るな!」
いきなり手を握られて肩が跳ね上がる。けれど慌ててその手を振れば、男はニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「そうムキになって怒んなよ。ちょっと一緒に遊ぼうって言ってるだけだろ」
「……ざけんな!」
肩に回された腕で抱き寄せられるとぞわりと身体中に鳥肌が広がった。さらに振り解こうと持ち上げた手が無理矢理に引っ張られて、身体が固まったように動かなくなる。
「離せっ」
けれどとっさに声を上げると、僕の身体は別の方向へと引き寄せられた。力強い手が男から僕を引き離す。
「渉さん?」
てっきり戻ってきた渉さんだと思い、僕は振り返った。しかし狼狽した様子を見せる男を静かに見下ろすのは、バス停で見かけた彼――だった。
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