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第288話 邂逅 6-4

 それがなんなのか、気づいた時にはもう息が止まりそうなほど心臓が早鐘を打ち始めていた。なぜだろうと考えることができないくらいに僕は動揺していた。そして突然引き寄せられ、抱きしめられた身体にじわりと彼の体温が広がる。 「可愛い」 「……え?」  突然の抱擁に狼狽している僕の耳元で、彼は笑いを噛みしめ微かな声で囁いた。けれどその声はあまりにも小さく、僕は戸惑いながら首を傾げる。 「無防備過ぎるよ」 「む、ぼうび?」  ほんの少し呆れたように笑った彼は、いまだ首を傾げている僕に困ったような顔をして、さらに背を抱く腕に力を込める。 「早く帰ったほうがいい」  優しく背中をさすり、軽く額を合わせた彼の仕草に驚き目を瞬かせていると、先ほど触れていた頬にそっと口づけられた。 「少し、熱あるんじゃない?」 「……」  窺うように身を屈めた彼の視線に、なぜかひどくめまいがしてきた。そして額に当てられた手にまで、響いているのではないかと思うくらい心臓が痛い。 「大丈夫?」  しかし心配げに彼が眉をひそめた――それと同時か、階下の扉がカランと言う音と共に開かれた。  彼の手が、温もりがゆっくりと離れていく。 「だからさぁ。知らねぇよ。あいつ気まぐれだし、さっきもふらっと出てって、にゃんこみたいに首輪をつけられんならつけときたいくらいだっての」 「電話、してくれる?」  間延びした声に不機嫌そうな渉さんの声が続く。階下を見下ろせば、バスで見かけた金髪青年と渉さんが店から出てきた。 「あ、渉さん」  やっと出てきたその姿に少しほっとする。しかし下を見た僕の視界の隅を、ふいに黒い影が横切っていく。

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