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第289話 邂逅 6-5
「……ちょ、待っ」
そして僕は思わずその背を追いそうになった。けれど伸ばしかけた手に我に返り、僕は呼び止めかけた声を飲み込んだ。
「ミナト」
金髪青年――ミナトに声をかけ、彼は手にしたライターをゆっくりとした仕草で放った。宙で弧を描いたそれは、振り向いたミナトの片手に収まる。
「そうか、あれはあの子のだったのか」
ライターの行く先を見つめ、彼が呟いた言葉の意味がやっとわかった。
「ユウ! お前、どこに行ってたんだよ。お前のせいで俺、すげぇ絡まれた!」
階段を下りていく彼――ユウと呼ばれた青年に、ミナトは不機嫌そうな顔を見せながらも顔を緩ませ抱きついた。
「嘘つけ、お前絡まれて喜んでるだろ。お近づきになりたかったんじゃないのか」
「馬鹿野郎、俺はユウ一筋だっつうの」
抱きつくミナトに彼は肩をすくめるが、絡みついた腕などさして気にしていないのか、ちらりと視線を渉さんに向けてから、こちらを振り仰いだ。
「連れが妙なのに絡まれてたけど?」
「え? ……佐樹ちゃん?」
急に顔を青ざめ僕を見上げた渉さんが、もの凄い勢いで階段を駆け上がってきた。それを驚いて見つめていると、勢いそのままに抱きしめられる。
「大丈夫? なにもなかった? ごめん、待っててなんて」
「渉さん落ち着いて、深呼吸、深呼吸して。なんにもないから、大丈夫だから」
ぎゅうぎゅうと締め付けられる腕に、逆にどうにかなりそうだ。
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