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第290話 邂逅 6-6

 珍しく取り乱す渉さんの背中を叩いて落ち着かせると、やっと腕の力が緩められた。ずるずると力なく落ちた腕が腰の辺りで止まり、渉さんの頭が肩に乗せられる。なだめるようにその頭を撫でれば、小さなため息が聞こえた。 「ごめん、ほんとごめん」 「大丈夫だって、なにも」 「本当に、大丈夫だった?」  何度も何度もそう繰り返す渉さんに思わず笑ってしまう。彼はいつも僕に対して過保護なくらい心配性だ。 「渉さんありがとう。もう、用は済んだし助かった」 「うん、よかった。じゃあ、もう帰ろ」  小さく頷いた渉さんは再び強く僕を抱きしめ、頬にすり寄るように顔を寄せる。けれどそんな彼の背をあやすように叩きながら、僕はこちらを見る視線から目を離せずにいた。 「佐樹ちゃん?」 「……ん、ああ、帰ろう」  訝しげに振り返ろうとした身体を制して、僕は渉さんの手を取り来た道を戻る。 「……」  自分を見つめる視線に頭がくらりとした。彼に触れられた場所がひどく熱い。頬や身体が火照ったように熱くて、めまいがした。でもこれは多分、錯覚――ただの風邪だ。証拠に身体が軋むみたいに痛いし、少し寒気もする。  でも、なぜだろう。できればもう少し、傍にいたいと思ってしまった。

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