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第291話 邂逅 7-1
彼とはほんの少し話をしただけ。だからそんな風に思うには違和感がある。けれど彼のことを思うと、なぜか懐かしい気持ちになる。
「なんで、だ?」
不可解な感情に振り回されるような感覚。ここしばらく感情に大きな波がなかったので、余計にもどかしい。そして――ふいに思い出す。彼女と一緒にいることがとても楽だったこと、彼女は僕の足りない部分を補い、いつだって先回りして考えてくれていた。
「でも……そう思うのは、ものすごい引きずってるみたいで情けないな」
随分と時間が経って、気持ちの整理はついたつもりでいたのに、ほんの少し端っこを引っ張っただけで、記憶が芋づる式もいいところだ。
「しかも彼とみのりは似てないのに、なんでここで記憶がごっちゃになってるんだ」
また会えばわかるだろうか。いや、考えるのはよそう。いまはきっと人恋しいだけで、寒さが和らげばこんな記憶もいつか消えて行く。
「おい、佐ー樹! なにブツブツ言ってんだよ。そんなに具合わりぃの? ほれ、いま鳴ったろ。熱、何度」
「明良?」
ぼんやり眺めていた天井がふいに遮られ、目を瞬かせると、目の前の顔が呆れ返ったように歪んだ。
「疑問系で呼ぶな、まったく。何日寝込んでんだよ。だからお前は一人暮らし向かないって言ってんだろ」
戸惑っている僕をよそに、明良は手慣れた様子で首元へ腕を差し入れて、温くなっていたものを冷たい氷枕と交換する。
「いつ来たんだ」
「さっき、声かけただろ。覚えてねぇの?」
眉をひそめた僕の額の汗を拭いて冷却剤を貼れば、明良は差し出した体温計を摘み上げて大きなため息を吐いた。
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