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第292話 邂逅 7-2

「……七度九分ね。まだ熱ちょっとあんな」 「結構下がったぞ」  あの日、熱を測ったら八度を超え、いまにも九度を過ぎようかというほどだった。 「偉そうに言うな」  しかし明良には思いきり顔をしかめられ、無理やり布団を顎まで引き上げられた。 「お前、仕事は?」 「抜けてきた。時子ちゃんが佐樹と連絡がつかないから、なにかあったんじゃないかってさ、電話をもらったんだよ」 「母さん? わざわざ明良に電話したのかあの人」  明良の声にぼんやり耳を傾けながら、ふと母親である時子の誕生日に連絡し損ねたことを思い出す。寝込んで恐らく今日で三日目。今朝の職場連絡以外、ひたすら寝ていたので携帯電話も家の電話も、鳴っていたのに気づかなかった。 「鍵、合い鍵を使った?」 「ああ、緊急事態かもしれないからそれ使って入ってくれって。実家のほうはいま雪ですげぇらしいぜ。出んの大変だよな、あそこ田舎だしよ」 「そうなのか」  あそこは本当に雪が積もると身動きが取れなくなる。慌てふためいて皆で雪掻きしている姿が目に浮かぶ。 「休んでるあいだになんか食った? いまキッチンを借りてるから、それ食って薬飲めよ」 「ああ、悪いな。明良も忙しいだろう」 「心配すんな、俺の代わりはあそこには腐るほどいる」  そう言って僕の額を軽く何度か手のひらで叩き、明良は部屋を出て行く。その後ろ姿を見送り、なに気なく顔を上げて時計を確認すると、十五時過ぎだった。茹だる頭で数えている日にちが間違いでなければ、今日は月曜日のはずだ。

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