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第293話 邂逅 7-3
「休み関係なく忙しい癖に」
普段から適当且つ大雑把な明良だが、あれでも職場では統括の主任で、下に部下がいる立場だ。元々器用で立ち回りが上手い彼だから特別それに驚きはしないが、役どころに相応しく忙しい身の上なのも知っている。
母にあとで釘をさしておかなければ。
「明良といい渉さんといい、甘やかされてるな自分」
「渉がなんだって?」
「え、いや」
片手にお盆を持った明良が眉をひそめて戻って来た。身体を起こし首を振れば、訝しげに目を細められる。あの日会ったことは明良には内緒だった。
「あいつとなんかあった? いっつもだけど、ここ二、三日くらい佐樹、佐樹ってうるせぇの。やたら連絡を取りたがってんだよな」
大きなため息を吐きながら、明良はベッド脇のテーブルを寄せ、手にしたお盆を乗せた。けれどこちらを窺う視線をじっと見つめ返せば、不思議そうに彼は首を傾げる。
「なんだよ」
「別になにもないけど。連絡が来てたなら教えろよ。って言うより、渉さんに連絡先を教えてくれればいいのに」
あの晩、僕が風邪を引いたことにすぐ気がついた渉さんは、わざわざタクシーで家まで送ってくれた。けれど家に上がることは明良に禁止されていたらしく、玄関先で何度も謝られた記憶が――微かにある。
あの時はだいぶ意識が朦朧としていたので、彼には随分と迷惑をかけてしまったはずだ。
「あいつはロクな用じゃないからいいんだよ。それより食え」
「またお前は、すぐそうやって渉さんを粗野に扱う。なんでそんなに扱いひどいんだよ」
ムッとした僕に肩をすくめ手近な椅子に腰かけると、明良はテーブルに置いていた椀を僕に差し出した。湯気立つ玉子粥からは、鰹節と梅干しのいい香りがした。
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