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第296話 邂逅 8-1
いや、しかし――もしそうだとしても、まだ彼がどういう人間かもわからないのに、それはいささか早計だ。
今回の件に関しては多分、ほだされるとは少し違うような気がする。
「懐かしい、って思うんだ」
「気になる相手が懐かしいって感じんの?」
ぽつりと呟いた僕の言葉に、明良は不思議そうな顔をして首を傾げる。
「ああ、なんとなく」
声や眼差し、手や仕草――なぜか彼のすべてが懐かしいと感じる。そして日を追うごとにその感情は強くなる。
「その人とは、最近知り合ったのか?」
「ん、雪の降り始めた晩に一回会って、少し話をしただけ」
ほんの五分か十分か、そのくらいの話だ。
「なあ、以前にも会ってるってことはないか?」
「え?」
一人考え込んでいる様子だった明良が、ふいに顔を上げて僕を見る。そしてそんな彼の言葉に僕は目を丸くし、それを瞬かせた。その発想はなかった。
けれど――。
「それなら向こうだって、気づきそうなもんだろ。全然そんな素振りなかった」
それどころか、時折困ったような表情を浮かべたりはしていたが、基本的に彼はあまり感情の起伏がないのか、触れられた手、こちらを見ていた視線、口づけられた頬。どれも表情からその意図も意味も読めなかった。
しかも彼はうろたえる僕を見て少し笑っていた。からかわれていたとしか思えない。
「忘れてるか、佐樹が気づかないからなにも言わなかった。ってのもあるんじゃねぇ?」
「それはもう会ってる前提?」
彼のことを思い返し、少し複雑な気持ちになった。
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