297 / 1096
第297話 邂逅 8-2
思わずムッとしながら言い返すと、明良は苦笑いを浮かべながらも肩をすくめた。
「お前は人の顔も名前も覚えるの苦手だろ。それなのに既視感あるなら、そう考えるのが妥当だ」
納得がいかず顔をしかめた僕に対し、椅子に身体を反らして座る明良。僕のことなのに、まるで彼のほうがそれに自信があるみたいだ。
「まあ、それがいつなのかを考えるのは、風邪を治してからでも遅くないけどな」
いまの調子じゃ会いに行けないからなと、苦笑いを浮かべる明良に、僕は無意識に眉をひそめてしまった。
「……考えても、もう会えないだろうから」
「諦めんの早いな」
肩をすくめた明良に空になった椀を押し付けて、僕は身体を横たえると、おもむろに布団を被り潜り込んだ。
「まあ、マジでお前はほだされ易いから心配だけどな。別にほかに好きな人ができてもいいと思うぜ。お前がちゃんと幸せになれんなら、俺は協力するし」
「そんなんじゃない」
確かに彼のことは気になるけれど、そういうのとは違う気がする。それに会ったところでどうしたいわけでもない。彼には恋人がいるようだったし、興味本位で近づいても、明良の恋人のように余計な不安を与えるだけだ。
「……もういい」
「そうか。風邪薬、持ってくるな。ちょっと待ってろ」
小さなため息と共に、布団の端から出た頭を撫でられる。遠ざかる気配に僕は息をついた。
「前って、いつだろう」
もういいと明良に言っておきながら、口からこぼれ出た言葉に自分自身で呆れる。そしてその理由がわからないことが、たまらなく不安でもどかしい。
ともだちにシェアしよう!