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第297話 邂逅 8-2

 思わずムッとしながら言い返すと、明良は苦笑いを浮かべながらも肩をすくめた。 「お前は人の顔も名前も覚えるの苦手だろ。それなのに既視感あるなら、そう考えるのが妥当だ」  納得がいかず顔をしかめた僕に対し、椅子に身体を反らして座る明良。僕のことなのに、まるで彼のほうがそれに自信があるみたいだ。 「まあ、それがいつなのかを考えるのは、風邪を治してからでも遅くないけどな」  いまの調子じゃ会いに行けないからなと、苦笑いを浮かべる明良に、僕は無意識に眉をひそめてしまった。 「……考えても、もう会えないだろうから」 「諦めんの早いな」  肩をすくめた明良に空になった椀を押し付けて、僕は身体を横たえると、おもむろに布団を被り潜り込んだ。 「まあ、マジでお前はほだされ易いから心配だけどな。別にほかに好きな人ができてもいいと思うぜ。お前がちゃんと幸せになれんなら、俺は協力するし」 「そんなんじゃない」  確かに彼のことは気になるけれど、そういうのとは違う気がする。それに会ったところでどうしたいわけでもない。彼には恋人がいるようだったし、興味本位で近づいても、明良の恋人のように余計な不安を与えるだけだ。 「……もういい」 「そうか。風邪薬、持ってくるな。ちょっと待ってろ」  小さなため息と共に、布団の端から出た頭を撫でられる。遠ざかる気配に僕は息をついた。 「前って、いつだろう」  もういいと明良に言っておきながら、口からこぼれ出た言葉に自分自身で呆れる。そしてその理由がわからないことが、たまらなく不安でもどかしい。

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