299 / 1096

第299話 邂逅 8-4

「なんでちゃんとできないんだろう」 「お前なぁ、具合悪い時に余計なこと気にすんなよ」 「あの時だって」  僕は彼女に甘えてしまっていた。だから彼女のことを、ちゃんと理解しようとしなかった。いや勝手に理解している――つもりでいたんだ。 「してもらうことが当たり前になり過ぎて、僕はちゃんと彼女の気持ちを考えたことがなかった。伝えようとしなかったし、知ろうとしなかった」 「……んなことねぇよ。佐樹は佐樹なりに考えて応えてたし、あの頃はみのりも情緒不安定だったんだ。佐樹だけが悪いわけじゃない」 「でも! 僕があの日ちゃんと話を聞いていたら、あんなことには、みのりが事故に遭うことはなかった」  背を撫でていた明良の手を払い、僕は飛び起きるようにして布団を跳ね退けた。 「なんで、どうしてっていまも後悔する。今更考えたってどうにもならないのはわかってる、けど」 「どうした、急に。……まあ、調子悪い時ほど人間は余計なこと考えて不安になるか」  どこか困惑した雰囲気をまといながら、明良は俯いていた僕を抱き寄せてなだめるように背を叩く。その優しさに泣きそうなくらい胸が痛くなるのに、ちっとも涙は出て来ない。  あの日から――どんなに悲しくても、苦しくても、泣きたくても、涙が出て来ない。多分欠けた記憶の中に、僕はそれを置き忘れてきた。

ともだちにシェアしよう!