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第299話 邂逅 8-4
「なんでちゃんとできないんだろう」
「お前なぁ、具合悪い時に余計なこと気にすんなよ」
「あの時だって」
僕は彼女に甘えてしまっていた。だから彼女のことを、ちゃんと理解しようとしなかった。いや勝手に理解している――つもりでいたんだ。
「してもらうことが当たり前になり過ぎて、僕はちゃんと彼女の気持ちを考えたことがなかった。伝えようとしなかったし、知ろうとしなかった」
「……んなことねぇよ。佐樹は佐樹なりに考えて応えてたし、あの頃はみのりも情緒不安定だったんだ。佐樹だけが悪いわけじゃない」
「でも! 僕があの日ちゃんと話を聞いていたら、あんなことには、みのりが事故に遭うことはなかった」
背を撫でていた明良の手を払い、僕は飛び起きるようにして布団を跳ね退けた。
「なんで、どうしてっていまも後悔する。今更考えたってどうにもならないのはわかってる、けど」
「どうした、急に。……まあ、調子悪い時ほど人間は余計なこと考えて不安になるか」
どこか困惑した雰囲気をまといながら、明良は俯いていた僕を抱き寄せてなだめるように背を叩く。その優しさに泣きそうなくらい胸が痛くなるのに、ちっとも涙は出て来ない。
あの日から――どんなに悲しくても、苦しくても、泣きたくても、涙が出て来ない。多分欠けた記憶の中に、僕はそれを置き忘れてきた。
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