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第301話 邂逅 8-6
「佐樹? どうした」
「……頭が、痛い」
頭を鈍器で殴られたような痛みと、血の気が下がって冷えていく身体に冷や汗が吹き出した。ぐるぐると回り出した視界に吐き気がする。一気に頭の中で映像が早送りのようなスピードで動き出して、言葉にならないほどの重苦しい感情が溢れ出す。
そして彼女の声が頭の中で木霊するように何度も響き渡った。
――もう一緒にいるのが不安なの。
「ごめん」
――私、あなたのことが見えない時がある。
「僕が、悪かったんだ」
――どうしてちゃんと考えてくれないの。
「ごめん、そんなつもりじゃなかった」
彼女の声と言葉に僕は耳を塞ぎうずくまっていた。あの時の後悔と空虚な感覚が蘇ってくるような気がした。
「おい佐樹、佐樹っ」
ぐにゃりと歪んだ視界と遠くで聞こえる明良の声。真っ赤に染まり始めた目の前が、現実と過去をごちゃ混ぜにする。
――私、どうしてあなたを好きになっちゃったんだろう。
薄い膜で覆い隠されていた記憶と感情が、剥き出しにされていく気がした。
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