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第304話 邂逅 9-3
毎日二人で待ち遠しく思いながら、笑っていたのはいつのことだったろうか。もう随分と遠い日のことのようにも思えてくる。
なにが起きているのか、もうわからなくなりそうだった。足元から地面が崩れ落ちていくようで、立っているのもやっとな思いだ。
「本当に申し訳ありませんでした」
そう謝り頭を下げる自分の母の姿さえ、ひどく遠くに感じた。そして泣き腫らした目でそれを見つめるみのりの母親の顔は、いまにも倒れてしまいそうなくらい青白かった。
「もう謝らんでください。娘は事故に遭ったんです。佐樹くんやお母さんのせいじゃない」
父親はそう唸るような声で呟き、僕と母に視線を向けながら、難しい顔をして口をつぐむ。多分きっとそれしか言葉が見つからないのだろう。
なぜ、こんなことになってしまったのか。一体、僕はどこでなにを間違えたのだろう。
「さっちゃん、帰ろうか」
「……」
母の声に顔を上げれば、いつの間にか待合室はがらんとしていて、もう僕たちのほかには誰もいなかった。ぼんやりとした明かりの中、母はうな垂れる僕を静かに見つめている。
「お義父さんとお義母さん、帰った?」
「今日はもう、お帰りになったわよ」
「そう」
心配げな表情で自分を見ている母の顔に息が詰まる。こんな夜遅くに呼び出され、どんな思いでこんなところまで来たのだろうか。彼女の両親を見るなり、いまにも土下座しそうな勢いで頭を下げたその姿に、たまらなくなって涙が出た。
でも――申し訳なく思うのに、どうしてもいまはここから動ける気がしなかった。
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