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第306話 邂逅 10-1

 ポツリポツリと小さな雨粒が頬へ落ち、僕はその冷たさに目を瞬かせた。気づくと僕は、道路の真ん中で一人立ち尽くしていた。行き交う車の流れは速く、どうやってここへ来たのかさえわからない。真っ暗な空の下、煌々と灯る光の渦に飲み込まれ、身体がふわりふわり揺らめいているような気もした。  けれどそんな僕の腕を誰かが強く掴み引き寄せた。 「いまここで死んだら、あなたは楽になるかもしれないけど、あとに遺された人はどうするの」 「え?」  甲高いクラクションが激しく鳴り響くその中で、突然目の前に現れた彼は切迫した様子で僕を見つめ抱きしめる。急に現実に引き戻されたようなその感覚に、身体の力が抜けずるりとそれが下へ落ちて行く。 「いまの自分と同じ気持ちにさせるつもり?」 「……」  あ然としたまま座り込んでいる僕に小さく息をつき、彼は力の抜けた僕の身体をおもむろに支え上げた。そして通り過ぎる車の間を縫い、彼と僕は歩道へと戻った。 「大丈夫?」 「……」  僕を見下ろす、ひどく心配げな視線を感じる。しかしロクな返事もできぬまま、僕は彼の両腕を掴んでいた。 「こんなに震えてるのに、よくこの道に飛び出して行けたね」 「わからない。覚えてない」  確かに彼が言うように、情けないくらい彼の袖口を掴む手はガタガタと震えていた。けれどなぜいま、自分がここにいるのかがわからない。ここはこの辺りでもかなり交通量が多い場所で、深夜でもそれは変わらない。

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