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第307話 邂逅 10-2
ひと気の少なさを見れば、電車などは既に終わった時間帯なのかもしれない。
「夢遊病? もしかしてよくあるの?」
「え、あ……いや」
怪訝な顔をして首を傾げた彼の仕草に、ふっと我に返る。多分これは今日が初めてじゃない気がする。薄暗いぼんやりとした記憶が頭の片隅に浮かんだ。
「家まで送るよ。さすがに家は覚えてるよね?」
「ああ、でも一人で帰れる」
「じゃあ、タクシーを拾ってあげるよ」
そう言って通り過ぎようとしたタクシーに上げた彼の手を、僕はとっさに掴み引き下ろした。彼の手を握る指先がまたカタカタと震え出す。それを抑えるようにぎゅっと強く力を込めた僕を、彼はまっすぐな瞳で静かに見つめている。
「いい、タクシーは、歩いて帰るから」
「近いの?」
「……そんなに、遠くない」
あの日からなぜかタクシーに怖くて乗れない。僕が事故に遭ったわけでもないのに、乗るとひどいめまいや吐き気に襲われて、どうしても乗れないのだ。
「じゃあ、やっぱり家まで送るよ」
「まっ、待って! 君は、誰だ」
なんの躊躇いもなく僕の手を握り、歩き出そうとする彼を引き止めた。僕の声にゆっくりと振り向いた彼に覚えはない。
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