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第310話 邂逅 11-1
僕の視線に振り向いた彼は、戸惑う僕を労るように優しく笑う。でもぽつりぽつりと語る声はどこか寂しげで、彼の心を思うと喉の奥がひりひりと熱くなってくる。子供らしくない愁いを含む眼差しは、背伸びをしているわけでも、元から持っているわけでもない。きっと彼の置かれた環境がそうせざる得ない状況に追いやったのだ。
「父親が違うと色々不都合があるらしいんだけど、母親はそれを隠して結婚したみたいでさ。でも今頃そんなこと俺に言われたって、どうしようもない」
肩をすくめた彼の表情は、切なくなるくらい諦めを含んだものだった。本来ならもっと、屈託なく笑える年頃のはずだ。それなのに彼はやけに大人びた雰囲気をまとって笑う。
「そんなの絶対におかしい。親の都合で君が疎まれるなんて理不尽だ」
「……」
呟いた僕の声に目を細めた彼の表情からは、その気持ちを読み取ることができない。馬鹿にされたと思ってしまっただろうか。同情なんて本人からすれば迷惑なだけかもしれない。でもどうして彼がこんな思いをしなければいけないのか。
「そんな顔しないで、変な話を聞かせてごめん」
「いや、こっちが聞いたんだ。……悪い」
興味本位で聞こうとした自分の浅はかさに心底嫌気がさす。けれど彼は思わず立ち止まってしまった僕の頬を、そっとなだめるように撫でた。そしてその感触に顔を上げれば、やんわりと目を細めて微笑んでくれる。
「そんなことないよ。あなたはすごく優しい人だ。こんなあなたを遺して逝った人が、ちょっと妬ましい」
「え?」
彼の言葉に僕は思わず目を瞬かせてしまった。
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