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第311話 邂逅 11-2
しかし至極優しく微笑んだ彼の顔を見つめていると、ふいに繋がれた手を引き寄せられる。そしてゆっくりと持ち上げられたその手の先に、彼の唇が触れた。あまりにもさり気ないその仕草に、火がついたように顔が熱くなる。
「な、なんだ」
「おまじない、かな」
「なんの?」
うろたえた僕を見て、彼は悪戯っ子のような目をして笑う。そしてまた手を握り、再び同じ場所へ唇を落とした。ほんの少しのぬくもりなのに、なぜだかそこに熱を持ったような気持ちになる。
「あなたが幸せになれるように」
「どうして、そんなに君は僕に優しいんだ」
彼は僕を見かけたと言っていたが、実際にはまだお互い顔を合わせるのは初めてだ。あの時の僕を見ていたとしても、僕のことなどなにもわからないだろう。でも――彼の温かさには偽りがない気がして、疑えない。まっすぐなその瞳があまりにも綺麗過ぎる。
「あの日あなたに会って、放っておけない気持ちになった。傍に行って抱きしめたいって思った。けどあんな状況じゃ、そんなこともできないし、だから今日会えて嬉しかったよ。場面的には、かなり焦ったけどね」
苦笑いを浮かべながらも、どこか照れたように笑う彼の表情に僕は首を傾げた。
「それってどういう意味だ?」
「……好きなんだ。あの日から忘れられなくて」
僕が問いかけたのと同時か、ふいに彼に腕を引かれ抱き寄せられた。彼の胸元からは、少し忙しない心音が聞こえる。その音に自分の音が重なって、つられるように鼓動が速くなった。
「見ず知らずの人間に、いきなりこんなこと言われても迷惑だよね」
「そんなこと、ない。けど見てわかる通り僕は男だし、それはどう意味で捉えたらいいんだろうか」
じっと僕を見つめる彼を戸惑いながら見上げると、ふいに顔を強張らせた彼が離れていく。
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