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第316話 邂逅 12-3

「ん?」  ぼんやりとしばらく空を眺めていたら、ふと視線の端に人影が横切る。それに気づきその先を見つめると、見知らぬ制服を着た男子生徒が目の前にある一際大きな木を見上げていた。まだ芽吹く前のその桜の木の下で、彼はただ静かに佇んでいる。 「……」  きっと彼は受験生だろう。試験前にひと気のないところで気を落ち着かせる生徒もよくいる。  下手に声をかけて、気を散らすような真似をしては余計なお世話だと、僕はそのまま後ろ姿を横目に通り過ぎようとした。けれど僕はそれができずに思わず立ち止まってしまった。 「え?」  彼の視線の先でふわりふわりと風に舞うそれに、僕は目を疑った。白い小さなそれは間違いなく受験票だ。しかし彼はさして慌てる様子もなくそれを見つめていた。優しく吹かれていた紙が、急に強くなった風に煽られる。 「……あっ」  思わず漏れた声。その声に気づいたのか。それとも風に吹かれたそれがひらりひらりとこちらへ向かって来た――ただそれを目で追っていただけなのか。  彼はゆっくりと振り返った。 「ユ、ウ?」  僕の口元から呼び慣れない名前が紡がれ、舞い降りてきた白い紙が僕の手に落ちてきた。一瞬目を疑った――まさかそんなことがあるのかと、思わず自分の目を擦ってしまった。 「受験生、だよな? これもしかして君の?」  じっとこちらを見る彼は、やはりあの日会ったユウと呼ばれていた青年によく似ている。でも、制服姿のせいかどことなく違うような気もする。立ち尽くしたまま動かない彼に受験票を差し出せば、腕がゆるりと持ち上げられ指先がそれを掴んだ。

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