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第317話 邂逅 12-4
そして僕は、気づけばその指先をじっと見つめていた。長くて綺麗な指。彼の手はやはり少し見覚えがある、男らしい大きな手だ。
「そ、そろそろ始まるから、会場に行ったほうがいいぞ」
受験票を受け取りゆっくり離れていく手の動きに、僕は慌てて視線をそらすと、ひどくぎこちない動きで受付口のほうを指さした。
「……」
そのあいだも彼はじっと僕を見つめたまま、視線を動かさない。
「え、ちょ」
見られている意図がさっぱり理解できず首を傾げると、急に彼の指先が頬に触れた。そして驚き戸惑っている僕の目の前に彼が歩み寄る。そこにはもうほとんど距離がない。
「このあいだ、風邪は引かなかった?」
「風邪?」
ぽつりと呟くような声に僕は首を捻った。
「ああ、あのあとは少し長引いたけど、平、気って、え、なんで」
「ん?」
「ちょっと待った、嘘だろ? やっぱりそうなのか?」
なに気なく答えかけてその矛盾に気づいた僕は、思わず目を見開いた。けれど彼はそんな僕に訝しげな顔で小さく首を傾げるだけだった。
「いや、待て……おかしい」
不思議そうに瞬いた彼の表情が、思いのほか少年らしくて可愛いと思っても、それにどんなに見惚れそうになろうとも、僕の頭の中ではあの場所とこの場所のギャップで大いに混乱していた。
「いま、中学生……だよな」
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