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第318話 邂逅 12-5
ここに受験しに来ているのであれば当たり前過ぎるほど、当たり前な質問だ。例えば驚くほど彼が浪人していれば別な話だが、正直言えばうちは偏差値は低くないけれど、そこまでして入学するような進学校ではない。
そしてそんな僕の心情を察したのか、彼は少しわずらわしそうに眉をひそめた。
「先生、だったんだな」
「悪いか」
「別に、そんなつもりで言ったんじゃない」
ため息交じりで肩をすくめられ、ムッと顔をしかめてしまった僕に、彼は微かに苦笑いを浮かべる。
「……少し変わった」
こちらをじっと見つめるその視線に、思わずため息が出る。しかし僕の小さな呟きは彼に届かなかったのか、先ほどと変わらぬ表情で彼は僕を見ていた。
やはり以前よりも口数が減って、表情が乏しくなったように感じるのは気のせいじゃない。家の事情もあの日、聞きはしたがあれから彼はどうしていたのだろう。
「先生」
「え?」
急に声をかけられて、あからさまに身体が跳ね上がった。
「名前は?」
「あ、ああ、名前? 西岡、西岡佐樹。ここに入れば、そのうちまた聞くだろ」
「……そうか」
突然名前を聞かれ戸惑っていると、彼はふっと頬を緩めて笑った。
その表情に、大袈裟だが思わず時が止まった気がした。ふいに見せたあの頃とまったく変わらないその笑み、それにひどく胸が痛くなった。
「……」
「どうかした?」
やはり、彼はもう覚えてはいないのだろうか。あれから随分と経った。そしてあの晩も彼はなにも言わなかった。きっとそうなのだろうと、思うだけで泣きそうになる。
「まだ調子が悪い?」
そう言って頬を両手で挟み込み、僕を見下ろす彼の視線にさらに胸が痛くなる。
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