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第319話 邂逅 12-6
言葉にしてしまいたくなった。あの日のことを思い出して欲しくて、思わず彼の腕を掴んでしまう。
「相変わらず、可愛いね」
「……かわ、いい?」
ふいに眉をひそめた僕を見て彼は至極優しく笑い、またあの時と同じ場所に、僕の頬に口づけた。
「待って、待った、ストップ」
そしてあの時と同じように僕の心臓が大きく跳ねた。けれど彼は一向に手を離してくれる様子はなく、耳元で鳴るその心音にひどく焦る。
「西岡先生」
「え?」
突然呼ばれ、僕は間の抜けた返事をした。
「……好きだよ」
そして彼の言葉に瞬きをしたほんの少しの隙をつかれ、唇に触れたぬくもりに僕は固まった。目の前に見える伏せられた瞳と長い睫毛――優しく重ねられた唇。
「風邪、また引かないように」
「……」
優しくて柔らかな声が耳元を掠め、両手の代わりにふわりと彼の香りをまとったぬくもりが頬に触れた。けれどその正体に気がつく前に、彼の背中は僕から遠ざかっていった。
「ん、え……これ!」
我に返り、首元に巻かれたマフラーに気づいた時には、もうそこに彼はいなかった。
「ちょっと待て、いまのは?」
いまのは、覚えていた? そういうことなのか?
あ然として立ち尽くす僕の手の中で、風に吹かれたマフラーがふわりと揺れる。
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