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第320話 邂逅 13-1

 我に返った僕は慌てて建物内へ戻り、生徒の受付口へ走った。そしてあまりにも必死な形相で現れた僕に、受付をしていた同僚の女性たちは目を丸くしてこちらを見つめ返す。 「西岡先生? どうしたんですか」 「い、いま」  息が上がって言葉がうまく話せない。そんな僕に目を瞬かせながら、彼女たちは紙コップに入れた水を差し出してくれた。 「すいません……いま、受付に背の高い。やたらと男前な子が来ませんでした?」 「え?」  突然意味のわからない質問をされれば驚き戸惑って当然だが、僕はそんな彼女たちの反応を尻目に手元にある名簿に視線を落とす。しかし今日試験を受けに来ている生徒の数は、軽く見積もっても三百人弱はいる。それを見たところで彼の名前がわかるはずがない。 「格好いい子ねぇ、いまさっきのあいだなら二人くらいはいた気がしたけど、名前まではさすがに」 「一人はちょっと前に来たこの子だけど、もう一人は誰だったかなぁ」  うな垂れてその場にしゃがみ込んだ僕に、彼女たちは顔を見合わせて首を傾げた。指さされた名前に視線を向けるが、彼は多分違う。 「峰岸、一真」  ユウと呼ばれていたのだから、苗字か名前にそれが含まれているはずだ。  さっき受験票の名前を見ておけばよかった。 「西岡先生!」  がっくりと肩を落とした僕の背中に、慌てた間宮の声がかかる。腕時計を見れば、試験開始の十分前だった。 「悪い」  間宮に急かされながら慌てて試験場に入る。そして僕は反射的に教室内を見回してしまった。しかし残念なことに僕の担当教室に彼はいなかった。 「これじゃ、見つけるのは無理か」  試験の合間に休憩時間はあるが、そのたびにほかの教室を覗いて歩くわけには行かない。 「なんだか化かされた気分だ」  結局、僕は彼を探し出すこともできず、その後の入学式でも彼の姿を見つけることはできなかった。そしてせっかく思い出した感情も記憶も、整理できないまま再び胸の隅に追いやられた。

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