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第323話 邂逅 13-4

 すっかり陽が暮れて暗くなったとは言えども、薄明るい照明が照らすそこでは、制服姿の藤堂と彼に抱きしめられているスーツを着た自分は、否が応にも悪目立ちしてしまう。皆一様にぎょっとした表情を浮かべて過ぎていく。 「どうして、そんなに泣きそうな顔をしてるんですか」 「……」 「佐樹さん?」  なんと答えていいかわからない。藤堂がひどく心配してくれているのはわかっているのに、もどかしくて頭を胸元に擦りつけてしまう。するとさらに強く藤堂は僕を抱き寄せた。藤堂のぬくもりがいままで以上に温かくて、本当に泣きそうになる。 「少し歩きながら話をしませんか」  俯いた頭を撫でられ、窺うように横から顔を覗かれる。そしてその視線に小さく頷けば、藤堂は僕の手を取り歩き出した。その背中が初めて出会った雨の日の記憶と重なり、胸が苦しくなった。あの日もこうして、藤堂は僕の手を引いて歩いてくれた。そして僕を家まで送り届け、またいつかと別れた。 「あの日、藤堂に会わなかったら……僕はきっとここにいなかった」 「え?」  繋がれた手を強く握り返した僕を、藤堂は訝しげな顔で振り向いた。そしてそんな藤堂の目をじっと見つめれば、それは戸惑うように大きく揺れる。 「お前が僕を生かしてくれた。それなのに、忘れてごめんな。二度目に会った雪の晩、僕はお前のこと思い出せなかった。でも藤堂が好きだって言ってくれた時は、思い出してたんだ」 「……」  目を見開いた藤堂が、時を止めたかのように固まり動かなくなった。 「藤堂がいなくなるが怖いって思うのは、ずっとみのりのことがあったからだって思ってたけど、違った」  ずっと消えない不安は彼女のせいではなかった。

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