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第325話 邂逅 14-1
藤堂に触れると無条件に安心してしまう。そのたび、本当に自分は彼でなければ駄目なのだと思い知る。こうして藤堂と一緒にいるようになるまで、出会いがなかったわけじゃない。
でも藤堂に初めて会った時のような、一緒にいたいという気持ちにはならなかった。
「佐樹さん、もう少しだけ我慢して」
道の真ん中で抱きついてしまった僕に、藤堂は困惑した笑みを浮かべながらやんわりと腕を解いた。そしてそのまま再び僕の手を取ると、それ以上はなにも言わずまたこちらに背を向けて歩き出す。
「藤堂?」
足早なその歩調にいささか戸惑いつつ、僕は藤堂の背中を見つめあとに続いた。しかし無言のまま歩く藤堂に不安を覚え、繋がれた手を握りしめてしまった。
「なあ、怒ってないか?」
「怒ってませんよ」
落ち着きのない僕に藤堂は振り向きはしないものの、その手を強く握り返してくれる。
「……そうだよな、悪い」
決して怒っていないことも、機嫌を損ねていないことも、彼の背中を見ていればわかる。けれどなにか言わないと、さらに不安が募ってしまう。
「勝手なこと言って」
「佐樹さん」
「なに?」
しかしなおも言い募ろうとした僕を見かねたのか、急に振り返った藤堂に勢いよく腕を引かれ、道路脇にある建物の隙間に身体を押し込まれた。二人そこに立つのがやっとなその隙間で、向かい合ったまま藤堂を見上げると、ぶれることなく視線が合い一気に頬が熱くなる。
「な、なんだ?」
なにも言わずにじっと目を見られ、思わず動揺で声が上擦る。
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