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第326話 邂逅 14-2

「なにか、言えよ。不安になるだろ」  うろたえ、目がさ迷うのを誤魔化すように制服の裾を掴むが、自分の手が小さく震えているのに気づき慌ててそれを離した。 「俺は、怖くなって……逃げたんです。あなたから」 「え?」  急にぽつりと小さな声で呟いた藤堂に、思わず首を傾げてしまった。しかしふいに泣き出しそうな表情を浮かべた彼を見て、僕はとっさに両腕を伸ばしていた。 「またそうやって、すぐ自分の中に全部飲み込もうとする」  彼がこの表情を浮かべている時は、決まってなにかを言い澱んでいるか、謝ろうとしているかのどちらかだ。  そっと両頬を手のひらで包めば、藤堂はその上に自分の手を重ねて目を閉じた。 「普通に結婚していて、父親にもなろうとしていた……そんな人を、俺なんかが本当に繋ぎ留めていいのか、急に不安になったんです」 「……覚えてたのか」  あの雨の記憶がふいに脳裏を過ぎった。藤堂は全部覚えている――全部知っているんだ。 「一度も、忘れたことはないですよ」 「そうか」 「でも、本当はあんなことを言うつもりも、するつもりもなかった。ほんとに言い逃げもいいとこですよね」 「……」  ゆっくりと瞼を持ち上げた藤堂の瞳に、薄らと自分の姿が映った。肩をすくめ小さく笑いながらも、いまだ寂しそうな目をする彼に、心臓の辺りが針で刺されたみたいにチクリと痛む。 「……馬鹿、笑うなよ。お前のほうがよっぽど泣きそうだ」  初めて出会ったあの日から、もう五年近くになる。

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