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第327話 邂逅 14-3

 あれからずっと忘れずにいてくれたのだと思うと、嬉しさが胸にこみ上げた。でもそれと同時に、ずっと一人で想いを抱えていた藤堂のことを思えば寂しさで胸が苦しくなる。 「俺はあなたをずっと見てきたから、それだけでも幸せだった。佐樹さんは一人でも寂しくなかった? 平気だった?」  重ねられた藤堂の手が微かに震えている。どうして彼は自分のことじゃなくて、人のことを先に考えてしまうのだろう。 「寂しかったよ。お前にもう会えないかと思った」  消え入りそうなほど小さな笑みを浮かべた藤堂の頬をさすり、僕はそこに口づけた。 「すみませんでした。俺、会うのが怖かったんです。佐樹さんに避けられたら、嫌われたらどうしようって思ったら、会いに行けなかった」 「そんなこと謝らなくていい」  彼は甘え方を知らない。  きっといままで人に弱みを見せたり、甘えたりしてきたことがないからだ。だからこそ自分を支えられなくなりそうな土壇場で、自分を守ろうと無意識に身を引く。 「でも自分で逃げ出したのに、まったく忘れられませんでしたけどね。佐樹さんと初めて会って、別れてから、忘れようって何度も思いました。でも佐樹さん以外の人を心から好きにはなれなかった。色々試してみたけど、無理でした」 「……試すって」  苦笑いを浮かべ、肩をすくめた藤堂に思わず僕は口ごもってしまった。以前の藤堂は男女問わず色々な人と一緒にいた、そう三島に聞いてはいたが――それがそういう理由だったとは思いもしなかった。

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