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第328話 邂逅 14-4
「だから、女の子とも付き合った?」
「もしかして、あずみか弥彦に聞いたんですか?」
「ん、まあ。そんなところ」
眉をひそめた藤堂の表情に、言葉が詰まる。余計なことを言ったかもしれない。しかし気まずくなり視線をそらした僕を見た藤堂は、ふっと目を細めて笑みを浮かべた。
「誰と一緒にいても、まったく気持ちが動かないから、もしかしたらそっちもありかとか思ったんですけどね。それこそなしでした」
「馬鹿、なんでお前はそういうことするかな」
自分のせいだとわかっていても、その事実が複雑過ぎて胸の辺りがモヤモヤしてしまう。
「すみません」
「謝られても微妙だ」
別にその頃は付き合っていたわけでもなく、浮気されたわけでもない。
「でも、佐樹さんが俺のことを覚えてるなんて思わなかった。もっと俺に勇気があれば、佐樹さんに寂しいなんて思わせることはなかったんですよね」
「お、覚えてると言っても、半分は忘れていたみたいなものだし」
僕の記憶は忘れては思い出し、また忘れてまた思い出すという、あまりにも断片的な記憶だ。ずっと忘れずにいてくれた藤堂と比べるのは、あまりにもおこがましい。
「でもいまもこうして佐樹さんが気づかなかったら、俺はずっと知らない振りをするつもりだった」
「……それはいいって、さっき言っただろ。昔のことは覚えてなくてもいい、いまとこの先があればいいって」
ふいに表情を曇らせた藤堂の頬を軽く叩くと、添えた手のひらに口づけられた。
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