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第329話 邂逅 14-5
「いまとこの先は、全部佐樹さんのものだよ。前に俺、言いましたよね?」
「そ、そうだけど」
くすぐったさと気恥ずかしさで、ほんの少し肩が跳ねる。しかし手を離そうとすればそれを察した藤堂に、指先を強く握りしめられてしまった。
「佐樹さん」
「ん? なんだ」
「好きだよ」
「……知ってる」
まっすぐな眼差しで告げられた言葉に、情けないくらい頬が緩む。そして僕はそれを誤魔化すように、握られた手を解いて藤堂の頭を肩口へ抱き寄せた。
「やっぱり、本当に謝らなくちゃいけないのは僕のほうだな」
「どうして、佐樹さんが謝るんですか」
「二年前、逃げたのは藤堂じゃなくて僕だ。ちゃんと言えばよかった。会いたかったって、約束を覚えてるかって、僕がお前に聞けばよかったんだ」
それなのに自分が傷つくのが怖くて、僕は逃げた。勝手な理由をつけて、これは仕方ないことなんだとすべてなかったことにした。
そうでなければ二年前の藤堂に気づいて、いまの藤堂に気づかないはずがない。
「藤堂はなにも変わってなんかないのに、気づかないなんて最低だろ」
「……」
「まあ、ちょっと雰囲気とか見た目とか話し方とか違うけど」
髪を梳く僕の手に戸惑った様子を見せながらも、抱き寄せられた不安定な体勢のまま、藤堂はじっと動かずにいる。そんな彼が愛おしくて仕方がない。
「ああ、ほんと情けなくて自分に呆れる」
「急にどうしたの?」
大きなため息をついた僕に、藤堂は身じろぎして身体を起こそうとする。
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