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第330話 邂逅 14-6
「言ったこと撤回する」
「……言ったこと?」
藤堂の優しさも、自分を見る目も、名前を呼ぶ声も、昔となんら変わりはない。
「二度と忘れないってことも、あれからずっとお前しか好きじゃないってことも本当だけど」
整えられた彼の髪を指先で散らしてから、ゆっくりと身を離すと、僕はまっすぐな視線をわずかに遮る眼鏡を抜き取る。そこにはずっと感じていた違和感の正体があった。
外で会う藤堂は、二年前の彼と雰囲気が似ていた。そしてそれに僕は気づいていたのに思い出さなかった。見た目が違ったらわからないのが当然だなんて、言い訳も甚だしい。どれだけ僕は自分本位なのだろう。わからなかったんじゃない。わかろうとしなかったんだ。
「どこにも行くなとか、一方的で勝手なことはもう言わない」
僕はいつも、誰かがなにかをしてくれるのを待ってばかりで、その癖まったく堪え性がなくて、藤堂には求めてばかりいる。いなくならないでくれと縋る前に、ちゃんと彼を掴まえてあげなければならなかったのは僕のほうだった。
「でも僕はお前のことが好きだし、もうほかの誰にもよそ見はして欲しくないんだ」
「俺はあれからずっと佐樹さん以外、見てないですよ」
無意識に藤堂の袖口を握りしめていた。そんな僕の指をそっとそこから解くと、彼は優しく手を繋いでくれる。
「どうしたら伝わるかな」
「わかってる、わかってるからこそこの先、藤堂の気持ちが離れないように、努力もするし、ちゃんとこれからのことも考える……だからお前の傍にいさせてくれ」
自分の弱さで、もう二度と大切なものを失いたくない。
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