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第331話 邂逅 15-1
驚きの表情を浮かべたまま、目を丸くして固まった藤堂の背を、僕は広げた両腕で強く抱きしめる。耳元で聞こえる早い心音は、いまはどちらのものかわからない。
「これもやっぱり傲慢、かな」
ぎゅっと強く背を握ると、小さな笑い声と共に身体を抱き寄せられる。
「そんなことないですよ」
優しい声が耳元を掠め、髪を撫でられた。そしてそれを梳くように流れる藤堂の指先が、ゆっくりと下りそっと頬を手のひらで包まれる。
「なんだかプロポーズされてるみたいで、かなりトキメキました」
「プ、プロポーズって」
予想外の言葉に思わず顔を上げれば、至極優しい目がこちらを見下ろしていた。でもその目にはどこか悪戯を含んだ色も感じられ、僕は無意識に眉をひそめてしまった。
「からかうなよ」
「からかってません」
「お前ずるい」
口を尖らせた僕を見て藤堂は目を細めて笑う。そして顔を俯かせ彼の胸元へ額を預けた僕のこめかみに口づける。
「余裕ぶった顔して、ずるいよお前」
火照った顔を誤魔化すようさらに額を押し付ければ、肩が揺れて藤堂が笑い声を噛み締めているのが伝わる。
「少し前までは、しょぼくれてたくせに」
でも不思議な感覚だ。
藤堂が弱っている時は、自分がどうにかしてやりたいと思える。そして僕が弱っている時は、自然とそれを彼が補ってくれる。しなくてはと思うより先に心と身体が動く。
「そこまで余裕綽々じゃないですけどね」
「嘘だ」
肩をすくめた藤堂の胸に軽く頭突きをすると、小さな笑い声が静かな空間に響いた。お互いが自然に築くこのバランスが、たまらなく心地いい。
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